高校を辞めてまで乗りたかったバイク
このままここにいてなんになる?
そんな漠然とした不安に駆られながら漫然と学校に通う毎日。
いつしか自立したいという16のガキにありがちな考えに取りつかれ、現実を見ないまま外の世界に飛び出すんだ。
仕事探さないと…
そう思い16のガキは職業安定所、今のハローワークに行く事になる。
当時、今のハローワークの綺麗な建物の外観ではなく、暗くジメジメした外観で、正面入り口付近には北の国からの田中邦衛の様な格好の親父共がたむろしていた。
中に入ると沢山の衝立に無数に張り出された求人票に、これまた沢山の人々が禿鷹の様に群がっていた。
その群れの間を縫って手にした一枚の求人票を持って面接の約束を取り付けて貰った。
16のクソガキを雇ってくれた会社はホームクリーニングや施設の清掃を手掛ける会社だった。
社長と社長の弟が経営している小さな会社だった。
最初はパートのおばちゃん達とアパートの入居前の清掃などをし、数週間後に社長の弟と2人で壁紙貼りの仕事に従事した。
仕事をしながら中型自動二輪免許を取った。
翌年の冬にやっぱり高校位出ておけという周りの説得に折れ、定時制高校に入り直す事になった。
入学式ギリギリまで仕事をし、社長は快くオレを送り出してくれた。
日中畳屋でアルバイトをしながら夜学校に通う生活が始まった。
同時に念願のバイクを手に入れるんだ。
YAMAHAの250ccのアメリカン
購入契約から納車までの数日間ニヤケっ放しで、雑誌を広げてはカスタムの妄想に浸っていた。
納車出来るので取りに来てください
お待ちかねの電話を受け、リーバイスのブーツカットとレッドウィングのエンジニアブーツを履き、shotのダブルのライダースを羽織りヘルメット片手に徒歩でバイク屋に向かった。
ピカピカのバイクがオレを出迎えてくれた。
14の時から憧れていたアメリカンバイクが目の前にある。
オレのバイクだ。
バイク屋の親父がなんか喋ってたが血気盛んなクソガキはそれどころじゃなかった。
早速バイクに跨り、ヘルメットを被って、鍵を回す。
キャブにガソリンを送り込む為にアクセルを2~3回軽く煽る。
キュル ドッドッドッドッ
オレの鼓動とV─Twinエンジンの鼓動がシンクロしていく。
クラッチを握り、ローギアに踏み込む。
左にウインカーを上げ、一気に公道に走り出す。
ズドドドッ ドッドッドッドッドッドッ
突き上げる鼓動が荒ぶる。
オレの身体からスピードが吐き出されていく。
見慣れた国道がアメリカのハイウェイの様だ。
何時間走っただろうか。
指先は痺れ、身体の芯が冷えきった夜更けにガレージに相棒を捻じ込んだ。
14のクソガキが、ぶっ飛ばされ、憧れたアメリカンバイクを暫し眺める。
まだ熱いエンジンからはチンチンチンと余韻を楽しむかのような音がしている。
タンクの中では行き場の無いガソリンが不満気にタポタポ言っている。
またな
そう心の中でつぶやき、くたびれた雑巾の様にベットに崩れ落ちたんだ。
ここから始まったバイカーlifeは、今もまだオレの心を掴んで離さない
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